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深川歯科

搾りたての酒


 「炎暑」この二文字が、日日の新聞の見出しに躍る。事ほど左様に 暑かったこの夏であった。さしもの暑さに冷房は効かず、仕事中といえども遠慮なく汗が額や背中を流れた。診療が終わりに近づくと、頭の中は冷たい酒への思いが満ちてくる。仕事の後のアルコールは、 暑さと疲れを心地よく癒してくれるからだ。

 そんな猛暑の中のある日、気の合う仲間と酒を酌み交わしていた時のことである。「どの酒が一番旨いか」が話題になった。それぞれが 持論を展開し、いっぱしの通気取りで、有名銘柄の名を挙げつらねた。
そんななかT氏がおもむろに、確信に満ちた口調で、「二流・三流であろうと、蔵出しの搾りたての酒ほど旨いものはない」と断言した。続いて滔滔と、具体例を挙げて話す彼に、我我は呆気にとられて聞き入っ た。次第に、彼の造詣深い知識と、新鮮な角度から切り込む酒談義が、 私の心に火をつけ始めた。

 「搾りたての酒が飲みたい」という願望が身体中を走り始めた。猛暑が、この思いを一層かきたてた。

 幸い家内の実家は、酒どころ新潟の長岡である。次の休日、私は 長岡行きの新幹線に乗り込んでいた。長岡に着くと、自動車に乗り換えて、一路山間の酒造所を目指した。約一時間で、目的の玉川酒造 へ到着した。ここは豪雪で有名な北魚沼郡で、県下では中堅どころの酒造である。

 正面に高さ10メートルほどの小山があり、その左右に六棟の古風な家が並んでいる。この小山は、「ゆきくら」と呼ばれている。冬の雪をこの中に貯め、酒を貯蔵するための蔵である。中に入ってみると、冷え冷えとして、何とも気持ちが良い。寒暖計は、摂氏六度を指している。
何ともぜいたくな天然の貯蔵庫である。「ゆきくら」の隣の造り蔵の入り口に、大きな玉が吊るされている。説明では、「酒林」と言って、杉の葉で作った玉で、酒の仕込みの時に玉を作り、葉の色が茶色に変わる時期を飲み頃の目安とするとのことである。

 日本酒は、精米された米を蒸し、発酵させ、搾り、そして濾過する工程で作られる。これが原酒で、さらに「火入れ」で酒の発酵を止め、殺菌する過程を加えて出荷する。「火入れ」の済んだ生の酒を試飲して みた。口に含んだ瞬間、フワッとした香りが鼻に抜けてきた。甘い香りである。もろみの風味が残り、舌触りはまろやかである。しかし、 搾りたてが私の目的である。案内の娘に尋ねると、「杉玉の色が変わってから、ずいぶん日が経ちましたよ」との返事であった。搾りたては、いつでも飲めると考えていたのが、間違いであった。遂に、「搾りたて」は諦めて、試飲コーナーをゆっくり味わうことにした。

 T氏の話から、すぐに実行に移した私の行動には、「無知」が絡んでいた。しかし、日本酒の風味には、旧い人々の知恵と経験があることを、身をもって知ったのは大きな収穫と思った。